君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「私は、そんな話を承知した覚えはありません。そんなの、絶対にありえませんから」

「お前……」

「ほおう。酒々井社長がそんな思惑を抱いていたとはな」

 父がハッとして背後を振り返る。
 そこにおじい様とお義父様の姿を見つけて、目に見えてうろたえはじめた。

「こ、これは……言葉のあやでして」

「残念だよ、酒々井社長。わしの善意をそんなふうに利用するとはな」

 自分より力のある人を前にした途端に、強気だった父の態度がガラリと変わる。
 その姿に、自分は今までどうしてこの人の言いなりになってきたのかと悔しくなった。

「わしが、いろいろと履き違えていたのがいけなかったな。あくまで恩を受けたのは、先代の社長からだ。それを会社の関係にまで持ち込んだのが間違いだった」

 以前お会いしたとき、おじい様は絢音屋の先代社長は人格者で努力家でもあったと評していた。
 先代の人柄に惹かれて、彼は会社としての付き合いもはじめた。
 けれど、その息子が父のような傲慢な人物だとは予想していなかったのだろう。

 おじい様が、ひたりと父を見すえる。

「わしが恩を感じているのは、君ではない」

 父は先代の築いた縁に胡坐をかいていただけだ。
〝恩〟だけを頼りに、あまりにも好き放題しすぎた。

 お義父様がそっと前に出る。

「先ほどの君の話は、私も先代も到底無視はできない。絢音屋との今後の付き合いは、考えさせてもらおうか」

 ぐっと握りしめられた父の手が、わなわなと震える。
 それから父は勢いよく私の方へ振り返り、怒りの形相で睨みつけてきた。
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