君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「亜子。お前を引き取ったのは間違いだった。この疫病神が! お前との縁は今日限りで切ってやる」

 父はそう言い捨てて、おじい様たちになにも言わないまま荒々しくこの場を後にした。

 呆然とする私を、晴臣さんが抱きしめてくる。

「亜子。君は俺にとって必要な存在だ。あの男の言葉に耳を貸す必要はない」

「晴臣、さん」

 あの人になにを言われても、今さら傷つきはしない。
 これまで自分のしてきたことはなんだったのかと、虚しくなっただけだ。

「ありがとうございます」

 晴臣さんの温もりに包まれて、落ち着きを取り戻す。私からもそっと腕を回すと、彼の手の力がわずかに強くなった。

 落ち着きを取り戻したところで、お義父様とおじい様に謝罪する。

「父が、申し訳ありませんでした」

 深く頭を下げる私に、ふたりは顔を上げるように促した。

「亜子さんが謝る必要はないんだ。前にも言ったが、私たちはあなたを酒々井家のお嬢さんとしてではなく、晴臣が選んだ女性として受け入れているからね」

 お義父様の言葉に、おじい様だけでなく弥生さんもうなずいてくれる。

「ありがとう、ございます」

「ああ、もう。亜子ちゃん。本番前から泣いたら、お化粧が崩れちゃうじゃない」

 暗い空気を吹き飛ばすように、弥生さんが明るい口調で言う。

「ほらほら。もう時間がないの。晴臣もお父さんたちも、ここは一旦外してよ」

 男性陣は、彼女に急き立てられるように部屋を出ていった。

「亜子さん。この後は私に任せてくれ」

 振り返ったお義父さんがそう言ったのは、父の代わりにヴァージンロードを一緒に歩いてもらう約束をしてあったからだ。

「はい。よろしくお願いします」

 晴臣さんによく似たお義父さんの笑みが後押しになり、たとえ酒々井家に見放されても私は大丈夫だと自信を持って言えそうだ。
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