君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 その後、私と晴臣さんの結婚式は、絢音屋の社長一家が不在なこと以外は問題なく執り行われた。
 とはいえ酒々井家の親族席には晴臣さんより少し年上の夫婦の姿があり、周囲から多少の疑問や憶測は出たかもしれないものの体裁は取り繕えていた。

 親族席に座っていた男性は、絢音屋の社員で酒々井孝弘(たかひろ)という。私はほとんど話す機会がなかったが、酒々井家の縁戚だとだけは把握していた人物だ。

 入社して以来、優秀な成績を残してきた彼は今、経営戦略部長という立場にある。その血筋と業績から、次期社長候補のひとりだとささやかれている。

 そんな彼を、私たちの結婚式に招待しようと言ったのは晴臣さんだった。

 父が史佳たちを切り捨てと聞いて以来、晴臣さんはせめて結婚式について私の希望を受け入れるのならこちらも譲歩すると、繰り返し申し入れてきた。

 私としては、史佳にあれほど恨まれていたと知って、酒々井家に尽くすというこれまでの気持ちがすっかり折れてしまった。
 さらに目の前で衣装を切り刻む姿を見せられた恐怖に後から襲われ、絢音屋の白無垢を着ようとはどうしても思えなくなっていた。

 政略結婚という意味合いは、すでに招待状を発送していたのもあって受け入れた。けれど私個人としては、晴臣さんが言ってくれたようにただの亜子として嫁ぎたいと願った。

 それを認めてくれるのなら今後も二社の提携を変わらず続けるという三崎商事の姿勢は、晴臣さんが父に繰り返し示してきた。
 しかし父はまったく取り合ってこなかったため、こんな結果になったのも仕方がない。
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