君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 すっかり父を見放した晴臣さんは、取引に関わっていた絢音屋の社員と協力関係を築き、情報を共有してきた。

 その社員によれば、史佳がダメにした二着だけでも相当の費用がかけられていたため、それに劣らないレベルのものを再び用意するのは割り合わないという。これについては社長の独断で進められており、社内には不満をこぼす者が多くいた。

 父はさらに、水面下でも勝手な動きをしていた。試着時に撮影した写真をそのままプレゼンの資料に活用するなど、私に断りもなく用意していたようだ。

『母親譲りの容姿を生かさない手はない』と軽口ついでにこぼしていたために事が周囲に伝わり、晴臣さんの知るところとなる。

『亜子は見世物じゃない!』

 傷跡を気にする私を知っている彼は、自分勝手な父に激怒した。
 もちろん私も承知していない話で、許せるものではない。
 そんな父の所業を知って、さすがに私ももう家族に歩み寄ってなどと言っていられる段階の話ではないと悟った。

 一連のやりとりから、私の中で酒々井寛大の言いなりにはなりたくないという思いが強くなる。
 あの家に引き取られて以来、私は彼が押しつけてくるすべてを受け入れてきた。自分の希望をあきらめて理不尽な言い分に従う、私らしさを押し殺し続ける日々はもう無理だ。

 結婚を機に、私は父との関係を断ち切りたい。
 そう願っていたところで、〝跡継ぎ〟発言が飛び出して完全に吹っきれた。

 父と決別する。そうでなければ、今度は晴臣さんたち三崎家に迷惑をかけてしまう。
 その決意を晴臣さんに伝えた結果が、あの結婚式当日につながった。お義父様とおじい様があの場にタイミングよく駆けつけられたのは、父が怒鳴り込んでくる可能性を予想して前もって近くに待機していてもらったからだ。
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