君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
　絢音屋の社員と接触した中で、周囲にはあまり知られていなかった事実が判明した。それを晴臣さんは、私にも明かしてくれた。

『酒々井寛大には、兄がいたそうだ。幼い頃から優秀な人で、将来の社長だと早くから言われていた』

　自分より優秀な兄に、弟だった父は大きな不満を抱いていた。
　表立って父になにかを言う人はいなかったようだが、常に自分と兄を比較して卑屈になっていたという。

『彼の兄は、若くして亡くなられている』

　私にとっては伯父にあたるその人は、息子が生まれて幸せの絶頂にあった中、不慮の事故で亡くなってしまった。伯父はまだ二十代の若さだったという。
　そこで急遽、父が跡継ぎだと見られるようになった。

　あの人が絢音屋の発展に固執していたのは、純粋に会社を大きく育てたいという気持ちだけではないのかもしれない。
　勝手な想像だが、会社の勢力を拡大していくことで自身の力を見せつけて、兄にも劣らない姿を示したかったのではないか。

　幼くして父親を亡くした伯父の子どもは、その後、母親が育てていた。もちろん、酒々井家の祖父母もフォローしている。
　父親に負けない優秀さを示したその人は、本人の希望もあって絢音屋に入社して順調に頭角を現してきた。
　その人物こそが今回晴臣さんに協力していた社員であり、私の親族として奥様とともに結婚式に快く出席してくれた孝弘さんだ。

　おそらく彼には、酒々井寛大に対して思うところが多分にあったと思う。
　それでも私の過ごしてきた境遇を知って、『辛かったね』と優しく労わる言葉をかけてくれた。
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