君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 無事に結婚式を終えて帰宅し、リビングで晴臣さんと隣り合って座った。
 彼の膝の上を、ネロがすかさず陣取る。その晴臣さんとのネロの間に割って入ろうと、つくしが無理やり頭を突っ込んでいった。
 私の足もとでジャンプを繰り返すあずきを抱き上げて、小さな背中をなでてやった。

「亜子、疲れただろう?」

「少しだけ。それよりも、みんなにお祝いしてもらえてうれしかった」

 父はあれから式場を出ていったきり、戻ってこなかった。邪魔をされるのではと念のため警戒はしていたけれど、そうならなくて本当によかった

「今後の絢音屋だが、孝弘さんを中心に酒々井寛大に退任を迫る方向で動いている」

 私はもう退職しているとはいえ、たくさんの社員を抱えたあの会社が今後どうなっていくのは気がかりだ。

「うちとしても、このまま酒々井寛大が社長を務めるのなら手を引くと通告してある。ただそれは表向きの話で、社長が交代になった時点で取引を再開すると孝弘さんと話ができているんだ」

「彼はたくさんの人に慕われていたから、きっと周囲の賛同を得ながら事を進めてくれるはずです」

「そうだな。おそらくだが、いずれは孝弘さんが社長に就任するだろう」

〝先代の恩〟でつながった歪な関係も、これを機に今後は見直されていくだろう。

「それにしても、孝弘さんは本当に優秀な人だな。浴衣の普及を意図したイベントや、海外での和服のレンタル事業を展開させる提案とか、なかなかおもしろそうな話を聞かせてもらっている」

 つまり三崎との関係が終わるような事態には絶対にさせないという、彼の意志表示なのだろう。

「よかった」

 この先、どうなっていくのかはわからない。
 けれど晴臣さんの明るい表情に、絢音屋はきっとよい方へ進んでいくのだろうと確信できた。
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