君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「あっ、ちょっと、あずき」

 会話に集中して、なでていた手が止まりがちになっていたらしい。あずきは私の膝の上でジャンプをしながら、抗議するように顔に向かってきた。

「もう、だめったら」

 遊んでもらえると勘違いしたようで、キャンキャンとはしゃいだように鳴く。
 どこかしんみりとしていた室内が、一気に賑やかになる。静かさを好むネロはおもむろに立ち上がって自分の好きな一角へ行き、つくしは自分も遊びに入れてほしいと私に手をかけて訴えってきた。

「やめてよ、ちょっと」

 二匹にもみくちゃにされる私を、晴臣さんが苦笑する。

 けれど少し経った頃に、彼はピリッとした雰囲気で立ち上がった。

「お前たち、そこまでだ」

 そう言いながら、つくしとあずきをそれぞれ片手で捕まえた。

「亜子、少し待っていて」

「は、はい」

「ネロ、行くぞ」

 そう言って歩きだした彼にネロが続く。
 急にどうしたのかと首をかしげながら、その後ろ姿を見送った。

 しばらくして、晴臣さんは手ぶらで戻ってきた。

「亜子」

 熱い視線に見つめられて、ドキッとする。
 私の手を掬った彼に、立ち上がるように促される。態勢を整えようとしていたところ、不意に抱きしめられていた。

「ここからは、俺だけを見てほしい」

 首筋にかかる彼の吐息に体を震わせると、私を抱きしめる腕にさらに力がこもる。
 もしかして彼は、あずきたちに嫉妬したのだろうかと自惚れそうだ。
< 110 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop