君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 私の気持ちが追いつくまではと、これまで晴臣さんは口づけ以上の触れ合いをしてこなかった。
 その配慮をありがたく思う反面、私の中で物足りなさを感じるようになったのも事実だ。

 急に甘い空気になり、鼓動は痛いほど打ち付けてくるし緊張で呼吸もうまくできない。返事の代わりに、抱きしめられたまま首を縦に振った。

 体を離した晴臣さんが、再び私を見つめる。

「亜子」

 恥ずかしくてたまらないのに、絡まった視線を逸らせない。
 名前を呼ばれただけで、全身が熱くなった。
 私の顎に手を添えた晴臣さんが、ゆっくりと顔を近づけてくる。それに合わせて瞼を閉じた。

 柔らかな唇がそっと重ねられる。大きな手が頭に添えられて、彼は啄むような口づけを繰り返した。
 そのうち唇を食まれて、少し開いた隙間から彼の舌がそっと入ってくる。
 私の口内をゆっくりと探り、奥に隠れていた舌を優しく絡めとっていく。

「ん……」

 これほど深い口づけは初めてで、無意識のうちに甘い吐息が漏れる。
 だんだん体から力が抜けていき、彼の腕をぐっと掴んだ。それに気づいた晴臣さんが、すかさず腰に腕を回して私が倒れ込まないように支えてくれる。

 静かなリビングにくちゅりと水音が響き、わずかに残る理性が恥ずかしさを訴える。
 けれど、やめてほしいわけじゃない。彼が離れていってしまわないように、縋る指先にわずかな力を込めた。

「はあ」

 ゆっくりと体を起こす彼を見つめながら、深く息を吸い込む。

「亜子がほしい」

 ストレートに懇願されて、ドキリと鼓動が大きく跳ねた。

 彼とひとつになりたいと、私もずっと望んでいた。
 視線を逸らさないまま小さくうなずき返すと、晴臣さんは私をさっと抱き上げて夫婦の寝室へ連れていった。
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