君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 猫を抱く私に代わって、三崎さんが受付で手続きをする。
 診察室には、彼も一緒に着いてきてくれた。

 ドロドロに汚れた子猫を受け取った先生は、いろいろな角度から眺めている。
 それから看護師に体を綺麗にするように指示を出して、私たちに詳細を尋ねた。

「生後半年もいってないな。四カ月ってところか。人に慣れているし、間違いなく飼い猫だっただろうが……」

 看護師に体を拭かれる子猫に、先生が視線を向ける。

「逃げ出したのか、それとも捨てられたのか。いずれにせよ、飼い主を見つけるのは難しいかもしれないな」

 絢音屋の本社がある付近は、多くの高層ビルが立ち並ぶオフィス街だ。本社から少し離れたところにはマンションもあるけれど、そこから外に逃げ出す状況が想像つかない。
 捨てられた可能性も否定できないし、連れて歩いていた飼い主からなにかの弾みで逃げだした可能性もある。
 とりあえず、SNSでこの子を探していないかをチェックするつもりでいる。でも先生の言う通り、あまりいい期待できない気がした。

 綺麗になった子猫が私の手に戻される。
 汚れがひどくて気づいていなかったが、子猫は三色の模様がバランスよく表れた雌の三毛猫だった。

「少し衰弱しているが、ウィルス検査も陰性だし問題はないだろう。しばらくは体調に気をつけてやってほしい。なにもなければ、一カ月後に予防接種を受けに来るように」

 先生にお礼を言って待合室に戻る。子猫は慣れない環境にようやく恐怖心が出てきたようで、私の服に爪をたててしがみついてきた。その必死な様がなんだか痛ましくて、少しでも安心できるように小さな体を手で覆ってやる。

 そうしてしばらくして、この後この子をどうすればいいのかと思い至った。

 飼い主が見つかるまでは面倒を見なければならないが、酒々井家に連れ帰るのは難しそうだ。史佳たちに隠し通せるわけがないし、見つかれば捨ててくるように言われるかもしれない。
 助けた後悔はないものの、自分の取った行動はあまりにも向こう見ず過ぎた。
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