君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「どうかした?」

 うろたえる私に気づいた三崎さんが、心配そうに尋ねてくる。

「その、この子を連れ帰るのを、家族が許してくれそうになくて」

「ああ、そういうことか。それなら俺が預かるよ。飼育に必要なものはそろっているし、ネロは大らかな性格をしているから受け入れてくれるんじゃないかな。難しそうなら、とりあえず部屋を分ければいいし」

 さすがにそこまで甘えるのは図々しくて、即答できない。

「俺が不在時は、いつも世話になっているペットシッターを呼んで一緒に見てもらえるから心配ない」

 迷う私に、彼はそんな提案までしてくれた。

「本当に、いいんですか?」

「いいもなにも、ここで見捨てるなんてできないよ」

 きっぱりと言いきる彼の優しさに、胸が温かくなる。
 頼る先がないのは事実で、彼の申し出は本当にありがたかった。

「私の方で飼い主を捜してみます。一応、新しくこの子を飼ってくれそうな人も当たってみるので、引き取り先が見つかるまでお願いしてもいいですか?」

「ああ、かまわない。それなら、連絡先を交換しておこう」

 子猫を片手で支えながらスマホを取り出す。
 私のフルネームを告げると、彼はなにかが気になったようで首をかしげた。

「酒々井? さっきは絢音屋の本社付近にいたし、もしかして酒々井社長と関係があるのか?」

 名字だけで言い当てられてドキリとする。

「……酒々井寛大は、私の父です」

 社長の娘で間違いはないけれど、正妻の子でないため消極的になる。
 私の返答に、三崎さんはわずかに驚いた表情をした。

「そうか。じゃあ、亜子さん。これからよろしく」

 前触れもなく名前で呼ばれてドキリとする。どうやら彼は父を知っているようだし、区別するためにそう呼んだのだろう。

「よ、よろしく、お願いします」

 ぎこちなく返す私に、三崎さんは小さく微笑んだ。
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