君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「なんだ、亜子。晴臣君と面識があったのか?」

 混乱する私に、父が疑わしげな視線を向けてくる。 

「え、ええ」

「それならちょうどいい。早速だが、亜子には晴臣君と婚約してもらう」

「婚約、ですか?」

 唐突な話に戸惑い、彼と父の間で視線を往復させる。
 どうしてそんな話になっているのかわからず、ひたすら困惑をきわめた。
 そんな私の反応に気づいて、目の前に座る三崎さんが申し訳なさそう表情になる。

「晴臣君と亜子が結婚すれば、うちと三崎商事とのつながりが絶対的なものになる」

 話の経緯がまったく見えない。
 ただ上機嫌に笑みを浮かべた父を見て、これは決定事項なのだと悟った。

 「わかっているな、亜子」

 チラリと私に向けられた父のあまりに鋭い視線に、思わず顔が引きつる。
 世話になっている私に父の命令を断れるはずがなくて、反論はいっさいしなかった。

「……承知しました」

 私の返事に父は満足そうにうなずき、三崎さんはなぜか安堵の表情を浮かべた。

「ああ、そうだ亜子。この話は、しばらく内密に進めたい。史佳や都にも明かさないよう」

「はい」

 その理由はわからないが、逆らうつもりはもちろんない。

「いやあ、めでたいな。晴臣君。近いうちにそちらの社長と先代に挨拶へうかがわせてもらうよ」

「ええ、伝えておきます」

 こめかみを片手でそっと押さえた私を、三崎さんが見つめてくる。
 その気配を感じつつ、私は彼と目を合わせられないでいた。

「酒々井社長。ひとつだけ約束してください」

 ひとり浮かれる父がようやく話し終えたところで、三崎さんが畏まった調子で声を発した。

「なんだね」

「私と亜子さんとの結婚が、政略的なものだと重々承知しています。ですが、話を進める上で必ず亜子さんの気持ちを尊重してほしい。それが、こちらから提示する最大の条件です」

「……ああ、もちろんだ」

 父の表情がわずかにゆがむ。
 それでもこの話を逃すわけにはいかないようで、すぐさまにこやかに応じた。
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