君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 話を終えて、三崎さんとそろって社長室を後にする。そのまま、ふたりとも無言で廊下を進んだ。
 うつむいてエレベーターとの到着を待っている間も、気まずさに彼の方を見られずにいた。

「亜子さん。突然の話で、驚かせてしまったよな。黙っていてすまなかった」

 不意に、三崎さんがバツの悪そうな口調で話しかけてきた。

「え、ええ」

「社長の許可もあるし、よかったらこの後ふたりで話がしたい」

 まだ定時前なのに、父からはもう仕事を上がっていいと言われている。彼との仲を深めてこいという意味が込められているのは、言われなくてもわかっていた。

「はい、大丈夫です」

 緊張するけれど、この婚約はどうして持ち上がったのか私も事情を知りたい。それに、三崎さんがどう受け止めているのかも。

 帰り支度を済ませて、彼の車に乗り込む。
 三崎さんは、私をおしゃれなカフェへ連れて行ってくれた。

「そんなに緊張しないでと言っても、無理な話だよな」

 体を縮こませてうつむきがちに座る私に、三崎さんが苦笑する。

「実は、この婚約は俺自身も少し前に聞いたばかりなんだ」

 彼とは毎晩メッセージのやりとりをしている。
 私に彼の立場や今回の話をする機会はいくらでもあったはずで、どうして明かしてくれなかったのかと少し不審に感じていた。

 けれど、彼にとっても急な話だったのなら仕方がないだろう。婚約など、不確定な段階で軽々しく口にできるような内容ではない。
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