君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「三崎商事と絢音屋の関係がある以上、今回の件はどうしたって政略結婚に思えるだろう」

 先ほどの父の反応を見れば、〝思える〟どことかまさしく政略結婚だ。
 ただ二社の関係はうちが世話になるばかりで、三崎商事の旨みはほとんどないはず。その関係なら三崎さんから断ることだって可能で、どうして受け入れているのか私には不自然に思えてならなかった。

「そうですね。うちは三崎商事がいなければ、ここまで発展していなかったでしょうし」

「それを恩に着せるつもりはないんだ」

 カップに手を伸ばした三崎さんは、コーヒーをひと口含むと再び口を開いた。

「ただ、これだけは信じてほしい。俺はこの話が持ち上がったとき、相手が亜子さんだから応じた。ほかの女性だったら絶対に承知していない」

「え?」

「君と動物病院で顔を合せるようになって、ネロやあずきに向ける優しさを目にするたびに、亜子さんが気になる存在になっていったんだ」

 予想外の展開に驚いて目を見開く。
 落ち着きかけていたはずなのに一気に緊張が高まり、鼓動が騒ぎはじめた。

「つくしの救出を後先考えていなかったと亜子さんは言うが、ドロドロだった子猫に躊躇なく手を差し伸べる姿を見て、ますます自分の想いが明確になった」

 突然すぎて、なにをどう返したらいいのかわからない。

「つくしを介して亜子さんとのつながりができたときは、運がよかったと思った。これをきっかけに、あなたとの仲を深めたいと考えていたんだ」

「私と?」

「ああ」

 気恥ずかしさに、頬が熱くなる。
 こんなの、告白されているのも同然だ。
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