君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「仕事を盾に取るつもりはないが、結果的にそんな状況になってしまったのは申し訳ない」

 瞼を伏せた三崎さんから、目を逸らせられない。
 再び目を開いた彼と、正面から視線がぶつかる。

「亜子さん。俺と結婚してほしい」

 婚約は先ほど正式に決まった。
 それにもかかわらず、こうしてプロポーズまでしてくれた彼に胸が熱くなる。

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 私が断るつもりがないのには変わりない。
 けれど今心の中にあるのは父に従う義務感だけではなくて、恋愛感情とまでは言えなくとも、誠実な彼に対する温かな気持ちだ。

 ただ、彼は私が正妻の子ではないと知らないのだろうという後ろめたさが拭えない。
 社長室を退出する際に父から『余計なことは言うな』とこっそり耳打ちされたが、それはおそらく私の出自の話のはずだ。

「正式に婚姻届を出す時期は、父親をまじえて決めていくことになる。それまで少しでも仲を深められるように、俺の恋人として過ごしてくれないだろうか」

 もともと私は、優しい彼に好印象を抱いていた。何度か顔を合せるうちに、自分の中で彼が気になる存在になりつつあったのは否定しない。そうでなければ、傷跡に対する彼の反応を長くは引きずってはいなかったはず。

 三崎さんとなら、穏やかな関係を築いていける気がする。

「しょ、承知しました」

 前向きに捉えているものの、交際経験がまったくないせいで平静でいられない。激しく高鳴る胸もとを押さえながらなんとかそう返したが、いかにも不慣れな固い口調になる。
 いろいろと限界で、視線を目もとに落とした。
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