君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「亜子」

 突然そう呼ばれて、肩がピクリと跳ねる。

「これからは、そう呼んでもいいだろうか」

 そろりと見上げてコクコクと必死に首を縦に振る私に、三崎さんが優しく微笑みかけてくる。

「亜子にも、俺を名前で呼んでほしい」

 いずれ結婚するのだからそれが当然だとわかっているけれど、なかなか口にできない。
 でも三崎さんの期待するような目を見たら、拒否するのもいけない気にさせられる。

「は、晴臣、さん」

 小声でようやく呼んだ私に、彼はますます笑みを深めた。

 それから晴臣さんは、私の緊張をほぐすようにつくしの話を聞かせてくれた。

「彼女のやんちゃぶりを、実際に見せてあげたいよ。昨日なんてかなり高い棚に登ったのはいいが、降りられなくなって。俺が気づくまで情けない声でずっと鳴いていたんだ」

 これまで送られたメッセージや動画から想像するに、つくしはかなりわんぱくのようだ。家具類など傷めてしまわないか心配する私に、晴臣さんはネロも同じようなものだから気にしなくていいと言う。

「そうだ、亜子。近々、うちへ来ないか? つくしもきっと喜ぶよ」

 晴臣さんがつくしにもネロと同様に愛情をもって接してくれているのは、その言動から伝わってくる。だから彼に任せておけば大丈夫だと断言できた。

 けれど汚れた弱々しいつくしの姿を見ているだけに、元気になった様子を自分の目で確認したいとも思う。

「そ、それは……」

 すごく気にはなるものの、さすがに異性の家へ行くのは戸惑われた。

「俺たちは婚約したんだから遠慮はいらない。それに、亜子の気持ちの整理がつく前に不埒なまねはしないと誓う」

 私の不安をストレートに言われて、頬が熱くなる。

「で、でしたら、後日伺わせてください」

「ああ。亜子が来てくれる日を、楽しみにしている」

 どうしても恥ずかしさはなくならないが、私を歓迎してくれる彼の気持ちがうれしかった。
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