君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 一時間ほど話をしたところで、晴臣さんが自宅まで送ってくれることになった。
 私たちの関係を明かさないようにという父の言いつけを守って、自宅から少し離れたところで降ろしてもらう。

「また連絡するから」

「はい。お待ちしています」

 走り去る彼の車を見送っていると、なんだか名残惜しい気持ちになる。

 晴臣さんがただの知り合いではなくなったせいか、それからはなにをしていても彼が気になって仕方がなかった。終始そわそわしながら家事をこなし、纏わりついてきたあずきの毛を梳いてやる。

 夜になっていつも通りに彼から連絡がきたときは、手にしていた本を思わず投げ出して飛びつく勢いでスマホを見た。

【今日のつくしは、ネロのエサにまで手を出そうとしていた。さすがにネロに叱られていたが、懲りないようでちょっかいをかけてばかりだ】

 やんちゃな姿を想像して思わず笑ってしまう。おそらくネロは、母や姉のような気持ちでつくしを見守ってくれているのだろう。

 続けて、彼からもう一通受信した。

【今度の週末に、一緒に出かけないか?】

 それがデートの誘いだと気づいてドキリとする。
 メッセージを送るくらいはすっかり慣れていたはずなのに、意識した途端になにをどう返していいのかわからなくなった。

【二匹の仲が良いみたいでよかったです。週末は空いているので、よろしくお願いします】

 散々悩んで、ようやく返信ボタンを押した。普段よりもよそよそしい文章になってしまったかもしれないけれど、彼は気を悪くしていないだろうか。

【楽しみにしている】

 不安に感じていたところですぐに送られて来たひと言に、ようやくほっとした。
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