君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 今日はランチを食べながらお互いの話をしようと誘われている。
 私に交際経験がないのを、彼はすぐに緊張してしまう姿から察しているのだろう。
 彼はなにかと私を気遣ってくれているようで、前回と同様に気軽に入れそうなレストランへ連れて行ってくれた。

 案内されたテーブルに、晴臣さんと向かい合わせで座る。隣の席との感覚がゆったりとしているため、他人の目があまり気にならないくてほっとした。

「今日は付き合ってくれてありがとう」

「いえ。私の方こそ、誘っていただいてありがとうございます」

「亜子とは面識があったとはいえ、俺たちは互いにそれほど知っているわけじゃないだろ? だから、これからはこうして一緒に過ごす機会を増やしていきたいんだ」

 よい関係を築いていこうとしてくれる彼に、笑みを浮かべてうなずき返した。

「結婚について酒々井社長と話し合ってきたんだが、俺たちの結婚式は三カ月後を予定している」

「三カ月後、ですか」

 それはまた、ずいぶんと急いだ話だ。

「ああ。酒々井社長が、娘の希望だと話していたが……まあ、十中八九、うちとの縁を少しでも早く確実なものにしておきたいんだろうな」

 その想像通りで間違いないだろう。

「父が勝手を言って、すみません」

「いや、俺はかまわないんだ。ただ、亜子はそれで大丈夫か?」

 小学生の頃、父と初めて会った場で『家のためにとことん尽くせ』と言われている。それは家事をこなすくらいの話ではなくて、会社のためになる結婚を強要されているのだと、それから何度も言われていたからわかっていた。
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