君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 結婚の覚悟はできているつもりだ。話が急ピッチで進むのには戸惑っているものの、私に異存はない。

「はい。大丈夫です」

「亜子は派手なことが苦手かもしれないが、お披露目も兼ねて披露宴は少々大掛かりになりそうだ」

「……承知しました」

 大勢の人の前に立つと、想像しただけで足が竦む。
 でも両社の事情を考えれば、それも当然なのだろう。とくに絢音屋は、三崎商事とのつながりを世間にアピールしておきたいはずだ。
 
「酒々井社長の要望で、亜子の婚礼衣装は絢音屋が威信をかけて用意するそうだが、聞いているか?」

「いえ。初めて知りました」

「亜子の了承を得ていると言っていたが……」

 晴臣さんが小声でつぶやく。
 私にとって父の決めたことは絶対で、なにか意見するような立場にはない。彼の中で父の印象を悪くしないために、慌てて言い添える。

「私は、大丈夫なので」

「そうか? 一生に一度の晴れ舞台だから、もっと亜子の意見を言ってもいいだよ」

 衣装について強いこだわりはないのは本当だ。常識的なものならかまわないと思っていると明かすと、彼は渋々ながらに納得してくれた。

 それよりも、髪を結わえたときにこめかみがあらわになってしまうかもしれず不安だ。
 思わず表情を曇らせた私に、晴臣さん小さく首をかしげる。

「なにか気がかりでもあるか?」

「その……ご存じの通り、私のこめかみには大きな傷跡があります」

 いつものように髪で隠してはいるが、見えていやしないか途端に気になってその辺りを手で押さえる。
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