君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「髪型によっては隠せないでしょうし。そうなれば、晴臣さんに恥をかかせてしまうかもしれません」

 こんな傷物の私が相手だなんて申し訳なくて、うつむいてぎゅっと瞼を閉じた。

「大丈夫だ、亜子」

 晴臣さんの穏やかな声に、そっと目を開ける。

「俺が気にしているのは、その傷跡が今でも亜子を苦しめているという現状だけだ」

「それは……」

 私を気遣う彼の言葉に、目が潤みそうになる。

「なにか、後遺症のようなものはあるのか?」

 心配そうに尋ねられて、慌てて首を横に振った。

「傷が深くて神経をわずかに損傷していたようですが、すぐに処置を受けたので大丈夫です」

 状態が彼の想像以上に悪かったのか、晴臣さんが痛ましげな表情になる。

「気に障ったらすまない。なにがあってそれほど大きな傷を負ったのか、聞いてもいいか?」

 ここで史佳の話を持ち出したら、告げ口のように聞こえてしまわないだろうか。
 当時の彼女の心情もわからなくはないから、事実を明かすのに戸惑いがある。

 けれど、ここまで私を苦しめてきた傷跡の原因が自分だけにあるとするのは、どうしても腑に落ちない。
 そう感じるのは、世話になっているから仕方がないと、私は知らず知らずのうちに不満を抑えつけていたからかもしれない。

 言いよどむ私を、晴臣さんはじっと待ち続けている。急かしたり強要したりしないその私を気遣う姿を見ていると、ごまかしてはいけない気になった。
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