君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「いやあ、めでたいな。晴臣君。近いうちにそちらの社長と先代に挨拶へうかがわせてもらうよ」

「ええ、伝えておきます」

 ふたりの会話を聞き流しながら、こめかみを片手でそっと押さえる。
 髪に隠れる箇所とはいえそこには醜い傷跡があり、「気持ち悪い」「傷物」などと散々言われてきた。
 そんな私が、三崎商事の副社長の妻にふさわしいわけがない。

「酒々井社長。ひとつだけ約束してください」

 三崎さんの言葉に、ふと意識を引き戻される。

「なんだね」

「私と彼女との結婚が、会社絡みのものだと重々承知しています。ですが話を進める上で、会社の都合でだけではなく亜子さんの気持ちを尊重してあげてください」

「……ああ、もちろんだ」

 父は彼の発言を不快に感じたようで、表情がわずかに引きつっている。
 それでもこの話を逃すわけにはいかなかったのだろう。父はすぐさまにこやかに応じた。

 確実な縁を結びたいのなら、私よりも史佳の方がはるかに相応しい。父だってそう思っているはずなのに、どうして私に話がきたのか。

 こちらが隠している事情を知らない三崎さんが、父とにこやかに言葉を交わす。
 私には、その様子を力なく見つめるしかできなかった。
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