君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「三匹ともかわいかったが、特にネロはなぜか俺に懐いてしまって。ずっとついて回っていた」

「そんな反応をされたら、離れがたくなっちゃいますね」

 スーツをかっちりと着こなす彼とはかけ離れた様子が目に浮かび、密かに笑いをこらえる。

「まったくだ」

 大げさに肩をすくめた彼に、もう降参だと思わず吹き出した。

「もともと実家でも猫を飼っていたから、勝手はわかっていた。姉からも俺がもらってくれるのなら安心だと言われて、ネロを迎え入れたんだ」

 陳列棚を見詰めたままの彼の目は、優しく慈愛にあふれている。きっとネロは、晴臣さんに引き取られて幸せな日々を過ごしてきたのだろう。

 それから彼は、遠慮する私を押し切ってあずきのものまで一緒に購入してくれた。

「そうだ、亜子。今からつくしを見に来ないか?」

 車に乗り込んだところで、晴臣さんが言う。

「え?」

 唐突な提案に、すぐさま返せない。
 後日伺わせてもらうと答えておいたものの、さすがにまだ心の準備できていなかった。

「前にも約束したが、決して不埒な真似はしない」

 誠実な彼の言葉に安堵する反面、もしかしてそれは私に魅力がないせいだろうかと考えてしまう。
 彼に嫌われたくない。そんなふうに感じるほど、私は晴臣さんに好意を抱きつつあるようだと唐突に自覚した。
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