君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 彼の住むマンションは、お互いが利用している動物病院を挟んで酒々井家とは反対側に位置していた。

 地下の駐車場に車を止めて、エントランスホールに上がる。その正面のカウンターに控えていたコンシェルジュに会釈をしながら通り過ぎた。
 ペットホテルやシッターの予約など、ネロたちに関する手配は彼らがしてくれるのだと晴臣さんが教えてくれる。
 至れり尽くせりの仕様に、名ばかりの社長令嬢である私と彼の立場の違いは大きいのだと自覚させられた。
 けれど晴臣さんが私を受け入れてくれるのだからと、暗い考えはすぐに振り払う。

 エレベーターで彼の部屋がある二十八階へ上がり、玄関の前で立ち止まった。

「どうぞ」

 扉を開けてもらい、そろりと足を踏み入れる。
 前方に伸びる長い廊下の左右にはいくつかの扉があり、思っていた以上の広さに緊張が高まった。

 晴臣さんに案内されて、リビングへ足を踏み入れた。
 オフホワイトの壁紙に家具類はブラウンで統一されており、室内は明るい印象だ。
 ソファーの隅に置かれたかごに猫じゃらしを見つけて、頬が緩む。

 でも、肝心の二匹が見当たらない。

「ネロとつくしは、俺の不在時は行き来できる部屋を制限しているんだ。今連れてくるから」

 促されるままソファーに座って、そわそわしながら二匹を待った。
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