君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 しばらくして、晴臣さんの足音に加えてトトトと勢いよく廊下を駆ける音が聞こえてきた。そのリズム通りの素早さで、小ぶりの毛玉がリビングの入口を通過して玄関の方へ一目散に駆けていく。
 一瞬見えたあの色合いは、間違いなくつくしだろう。その元気な様子に、思わず笑みがこぼれた。

「こら、つくし。こっちだ」

 苦笑しながら、晴臣さんがリビングに入ってくる。彼の足もとには、体を擦りつけるようにしながらネロがぴったりとくっついて歩いていた。

 少しして、つくしが突進する勢いでリビングへ引き返してきた。そうして速度を落とさないままソファーに飛び乗って、ピタリと動きを止める。
 思った以上のお転婆ぶりに、私も驚きが隠せない。

 つくしは私の存在に気づいたようで、じっと見つめてきた。
 驚かさないよいよう、私も動きを止める。
 その様子を、少し間を空けて隣に座った晴臣さんが興味深そうに眺めてくる。

「にゃあ」

 まだ幼さの残る鳴き声が愛らしい。その声を合図に、つくしに向けてそっと指を差しだした。つくしはそこに鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、それから顔を擦りつけてきた。

 拾ったときよりも大きくなっている。その健康的な様子を目にして、私もようやく安堵した。

「亜子を覚えているんじゃないかな」

「うれしい」

 視線はつくしに向けたまま答える。
 つくしに緊張した様子がないのを確かめながら指で顎の下を掻くと、気持ちよさそうに目を細めた。
 少しずつ大胆に触れる。手をつくしの背中に滑らせてみたが、嫌がられなくてほっとした。
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