君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 晴臣さんの言葉に一喜一憂させられる。
 結婚すればもちろん彼と一緒に暮らすし、夫婦なのだから男女の関係になるのは理解している。
 ただまったく経験のない私はとにかく自信がないし、恥ずかしくてたまらない。

「少しは俺を意識してくれたか?」

 頬にさらりと触れられて、体がビクッと跳ねる。頬に熱が集まり、視線は不自然に揺れる。
 そんな私の反応に、彼は満足そうな顔をした。

 甘さが増した空気は、その後すぐにつくしによって霧散される。遊んでほしい一心で晴臣さんの膝にぽんっと飛び乗った彼女に、彼は「邪魔されたな」と苦笑した。

 それからもうしばらく二匹を眺めながら、これからの話をした。
 ネロやつくしがこのマンションに慣れているのもあり、結婚後はここで暮らそうと提案されて私も承諾する。
 それから、近々お色直しのドレスを選びに行く約束もした。

 結婚後の仕事に関しては、私の自由にしていいと言ってくれた。
 とくに絢音屋に強い思い入れがあるわけではないし、これまで父の言うまま生きてきたため挑戦したいものもすぐには見つけられそうにない。

「ゆっくり考えていけばいいよ」

 はっきりとした意見を持てない私に、彼はそんなふうに言ってくれる。
 無理強いも強制もしない晴臣さんと一緒にいるのは心地よくて、つい長居をしてしまった。

「いけない。もうこんな時間」

 私が突然声を発したせいで、ネロが迷惑そうに顔を上げる。

「私、そろそろ帰りますね」

 帰りが遅くなると、史佳がなにかを言ってくるかもしれない。
 彼女は私が長時間留守にすると、どこへ行っていたのかを探りを入れてくる。居候のような立場で、好き勝手に出歩くのをよしとしないのだ。
 口下手な私では、婚約を隠した言い訳など上手くできそうにない。

「そうだな。送っていくよ」

 彼の申し出に、ありがたく甘えさせてもらう。
 最後に二匹をひとなでして、名残惜しさに何度か振り返りながら晴臣さんのマンションを後にした。
< 49 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop