君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 初めてのデート以降も、晴臣さんからは毎日メッセージが送られてきている。内容はこれまで通り猫たちの様子を伝えつつ、結婚の話も混ざる。

 式や披露宴は彼と両社の社長が取り仕切っているため、私の出る幕はほとんどない。これは政略結婚であり、当事者とはいえ私の知らないところで物事がどんどん決められていく。

 挙式では父の用意する白無垢を着ると、先日晴臣さんが教えてくれた。その際に彼には、私が父からなにも聞かされていないと知られてしまった。
 その後も、晴臣さんは父の話しぶりに不信感を抱いたらしい。私がどこまで把握しているのかと、ある夜電話をかけてきてくれた。

『酒々井社長は色打掛も要するようだが、亜子も聞いているか?』

「えっと……」

 それは初めて聞く話だ。

『もしかして、なにも知らなかった? 酒々井社長は、娘も承知していると話していたが』

 私の歯切れの悪さに、晴臣さんも懐疑的な口調になる。

「で、でも、こうして晴臣さんが伝えてくれたので、大丈夫です」

 私の父に対する遠慮は、親子としては少し歪に見えるかもしれない。

『はあ』

 受話器の向こうの彼が、不満そうに息を吐き出した。

『酒々井社長は当初、挙式では文金高島田のかつらを使うと話していたんだ』

「え……」

 文金高島田は伝統的な日本髪のひとつで、髪を高く結い上げることで顔回りをすっきりと見せるスタイルだ。今は地毛ではなくかつらを用いるケースが多いと、これまで関わってきた仕事の中で私も知っている。

 最近では、もっとカジュアルな髪形を採用している人の方がずっと多い。
 父が古風な髪形を選択したのは、格式の高い結婚式場との取引を狙ってのことだろう。
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