君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 少し前に歴史のある神社で由緒ある家柄同士のカップルが式を挙げたと話題になり、一部のメディアで取り上げられていた。その際に新婦の髪形がそれだったのだ。

 これは人気が出るかもしれないと父はそこに勝機を見出したようだが、社内では長続きしないブームだという見方の方が強いと、たまたま隣で昼食をとっていた社員が話していたのが聞こえてきた。 

 そんな会社の事情はともかく、私が髪をすべてアップにしたら当然こめかみの傷跡が見えてしまう。それだけは、なんとしても避けたかった。

『古風な髪形の方が用意している白無垢に映えると社長は言うが、今回の目的が絢音屋の宣伝効果だと言うのなら、もう少し現代に寄せるべきだ。社長にはそう言っておいたが、亜子はどう思う?』

「流行もそうですが、あの髪形は……」

 絢音屋のために、結婚式では広告塔に徹するしかないとわかっている。
 それでも傷跡を見られるのが怖くて、受け入れられそうにない。

『そうだよな。亜子の懸念は、俺もわかっている』

 私が言い淀んでいるうちに、彼が察してくれた。

『はあ。酒々井社長には、結婚の条件として亜子の意見を尊重するように何度も話してきたんだけどな。この件については、俺が絶対に食い止めるから任せてほしい』

「よろしくお願いします」

『それはともかく、亜子。実は姉が亜子を紹介しろってしつこいんだ。今週末にでも、一緒に会いに行ってくれないか?』

「かまいませんよ」

 緊張はするだろうけれど、家族になるのだからきちんと挨拶をしておきたい。

『姉は化粧品ブランドをプロデュースしている。亜子が気にしている傷跡に関しても力になれるかもしれないんだが、話してもいいか?』

 晴臣さんの気遣いに胸が温かくなる。けれど同時に、彼のお姉様はどう思うだろうかと不安も感じた。
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