君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 それから私は、うつむいて声を上げないまま泣き続けた。
 隣から晴臣さんが背をさすってくれる。弥生さんは私の手を握ったままだ。

「す、すみません」

 しばらくして落ち着きを取り戻し、掠れた声で謝罪する。
 この歳にもなって、人前で泣くなんて恥ずかしくなる。

「謝る必要はないのよ。それに、大丈夫。亜子ちゃんの傷はメイクでカバーできるから」

「本当、ですか?」

 きっぱりと言いきる弥生さんに、期待から顔を上げた。

「ええ、私に任せて。今から簡単にやってみようか」

「お願いします」

 思わず即答した私に、弥生さんは笑顔でうなずいた。

 さらにもう一匹加わった猫と戯れる晴臣さんに見守られながら、弥生さんにメイクをしてもらう。

「今日は少し省略して簡単にやってみるから。それだけでもずいぶん違うと思うの」

 話しながらてきぱきと手を動かす弥生さんは、自信に満ち溢れている。

「使うのはこれよ」

 見せられた白いチューブの中身は、特別な化粧下地だという。

「一般的なものと違ってすごくカバー力が高いの。特殊メイクにちかいって言ったら、想像しやすいかしら? 主に傷跡や痣を隠す目的で開発したものよ」

 目を閉じた私の額に、彼女の指先が触れる。思わず体を強張らせたが、優しいタッチにすぐに肩の力を抜いた。
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