君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 弥生さんに迷いはなく、繊細だけれども素早く進めていく。
 あっという間にメイクを終えて、目を開けるように促された。

「どうかしら?」

 目の前に置かれた鏡を凝視する。
 顔を左右に傾けながら、様々な角度から確認した。

 彼女の言う通り、みみずばれのようになっていたピンク色はすっかり隠れて周りの肌に馴染んでいる。これほど近くから見ても、色の違いはわからない。

 驚いて目を見開く私に、弥生さんは満足そうにうなずいた。

「本当はね、最初に段差をなくすシートを使うの。その上でこの下地を使えば、今よりもっとうまく隠せてしまうわ」

 そんなものがあるなんて、まったく知らなかった。

「これは亜子ちゃんにプレゼントするから」

 驚く私に、弥生さんが使用した下地を差し出してくる。

「そんな、いただくだなんて」

「いいのよ。今回はお試しってことで。気に入ってくれたら、次からは晴臣に払わせるから」

 茶目っ気たっぷりに言った弥生さんに、晴臣さんが苦笑する。

「姉さんの商売上手には敵わないな」

 どちらにしても甘えるわけにはいかないと、晴臣さんに向けて首を小さく横に振った。

「さっきの亜子の明るい表情を見たら、俺が用意してやりたいと思った。君にはいつも笑顔でいてほしいから、将来の夫として俺が用意させてもらう」

 きっぱりとそう言いきった晴臣さんに胸が高鳴る。
 夫と言われた気恥ずかしさに両手で頬を押さえた私を、弥生さんはおかしそうに笑った。

「晴臣と亜子ちゃんの仲が良好なのは一目瞭然ね。もう十分にわかったから、これ以上、姉の目の前でいちゃつくのは遠慮してくれるかしら」

 弥生さんが若干わざとらしい口調で言う。
 彼女の指摘を晴臣さんは笑顔でかわしているが、私は頬が熱くなるばかりだ。
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