君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「本人たちがここに来てくれれば、私からいくらでも話をするんだが」

 これではあずきが不憫だと、眉を下げた先生の表情が語っている。

「すみません」

 私としても情があり、あずきの境遇は本当にかわいそうになる。できるものなら、痛い思いをさせる前に助けてやりたい。

「しばらくの間、散歩は禁止だ」

 先生はその小さな頭をわしゃわしゃとなでながら、「我慢だぞ、あすき」と言い聞かせた。

「よくなるまではゲージに入れて、安静に過ごさせて」

「はい。ありがとうございました」

 診察を終えて、何頭かのペットでごった返す待合室に戻った。

 あずきが世話になっている石黒(いしぐろ)動物病院には複数の獣医師が在籍しており、二十四時間体制で診察を行っている。私が利用するのは、仕事が休みの週末が多い。

 キャリーケースに入るのを全力で拒否するあずきに折れて、膝に抱いたまま椅子に座る。
 好奇心旺盛なこの子にとって、安静にしているのは退屈に違いない。なんだかかわいそうになって、慰めるようにその小さな背中をなでた。
< 6 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop