君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「そうだ! ふたりの結婚式では、私が亜子ちゃんのメイクを担当していいかしら?」

 すっかり弥生さんに信頼を寄せて、即答しそうになる。それをぐっとこらえて視線で晴臣さんの意向をうかがうと、彼は力強くうなずき返してくれた。

「よろしくお願いします」

 また遊びに来てねと言ってくれた弥生さんに見送られて、部屋を後にする。
 車に乗り込んですぐに、晴臣さんへ感謝を伝えた。

「晴臣さん、今日はありがとうございました」

「俺は亜子を姉に紹介しただけだよ」

 あえて彼は、たいしたことないように返す。

「私、この傷跡があったから、これまでずっと自分に自信を持てずにいたんです」

 運転中の晴臣さんがこちらを見られないこの時間を利用して、自分の胸の内を明かす。

「人前に立つのも、人と深く関わるのも躊躇してばかりいました。でも晴臣さんと弥生さんのおかげで、大丈夫だって勇気を持てたんです」

 今でも傷跡は私の左のこめかみにある。
 でも、弥生さんのメイクのおかげで一見してわからなくなった。たったそれだけのことで、漠然と抱いていた恐怖心がすっかり薄れている。
 ふたりの後押しを、無駄にはしたくない。
 そう思ってさっき外した眼鏡はバッグにしまっておいたし、長く伸びた前髪も切ろうと決めている。

「結婚式で、私、胸を張って晴臣さんの隣に立ちたいです」

 私がおどおどしていては、晴臣さんまで周囲から侮られかねない。そんなことは絶対にさせない。

「亜子が前向きになれたのなら、俺もうれしいよ」

 晴臣さんが私と結婚してよかったと思えるように、今よりもっと強くなりたいと強く願った。
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