君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー

求められる幸せ

 晴臣さんとの結婚が決まって、一カ月ほどが経った。
 季節はますます秋らしさを増し、肌寒さに家路を急ぐ。

 晴臣さんとは、デートを重ねて順調に仲を深めつつある。
 毎晩、彼から送られてくるメッセージの最後には【次に会えるのが待ち遠しい】【早く一緒に暮らしたい】など、甘い言葉が添えられるようになった。
 そんなふうに言われて、彼を意識しないはずがない。

 優しくて誠実で、いつだって私を気遣ってくれる晴臣さんが男性として好き。自分の気持ちがそう明確になったのは、婚約が結ばれた当初に思った通りあっという間だった。

 家に着き、夕食をとるためにダイニングへ向かう。
 史佳は毎日定時で仕事を上がっているため、私が少し遅く帰宅するとすでに都と夕飯を食べ終えている。ふたりにかち合う場合、私は時間をずらすようにしているため同席したことは一度もない。

 父は外食をしてくる日が多いが、その相手が仕事の関係者かはわからない。玄関先で受け取った父のジャケットからは、たまに女性ものの香水が香っていた。

 機会は減ったとはいえ、帰宅が早いと私は今でも父の私室に呼ばれている。
 父は私に『酒々井家に尽くせ』『結婚後も絢音屋のためになるように動け』と繰り返しながら、あれこれと自分の世話をさせる。

 身の危険を感じるような事態は起こっていないが、もしこの人と血がつながっていなかったら、私は母の代わりを務めさせられていたかもしれない。そんな想像に何度もゾッとした。
 実の親子というつながりを喜ぶ気持ちはまったくないものの、その関係が自分の身を守っているのは否定できないでいた。

 私が父の部屋へ足を運んでいるのを知っている都からは、必要以上に辛く当たられている。
 それだけでは満たされないのか、彼女はストレスを発散するかのように頻繁に買い物をする。
 その目に余るほどの散財や、絢音屋の社長夫人でありながら和装を避けてブランド物の洋服ばかりを纏う態度に父は腹を立てており、ふたりの仲は悪化する一方だ。

 母親の振る舞いを見て育った史佳も似たような価値観で、自分のもらっている給料以上の贅沢を繰り返している。彼女は絢音屋の秘書でありながら、実のところ和装にはまったく興味がないというのは本人が様々な場面で口にしてきた。

 もともとこの家族はあまり上手くいっていなかったようだけれども、私のせいで関係がさらに悪化している。それを申し訳なく思うが、自分にはどうすることもできないでいた。
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