君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 使用人が用意しておいてくれた食事を温め直して席に着く。
 静かなダイニングで、考え事をしながら箸を手にした。

 あと二カ月ほどで、私は晴臣さんと結婚して彼のもとへ行く。
 急な話に対する戸惑いは徐々に薄れ、今では嫁ぐ日を待ち望んでいる。それは晴臣さんと一緒にいたいのはもちろんのこと。苦しいばかりだった酒々井家から、早く離れたいという気持ちもある。

 黙々と食事をしていたところで、こちらに向かってくる足音が響いてきた。気が立っているのか、少々荒らっぽい。そこに感じる負の感情が自分に向けられているのではと察して、瞬時に体が強張った。

「ちょっと、亜子!」

 ダイニングへ入ってきたのは史佳だ。
 鋭く睨まれて、反射的に身を竦ませる。

 中学生だったあの日、私はこの場所で突然怒りを向けてきた史佳によってこめかみに大きなケガを負った。
 あれから月日が流れて私も大人になり、彼女の悪意をなんとか平静を装って流せるようになったと思っていた。
 けれど、トラウマのもととなったこの場所では上手くいきそうにない。怒りの滲む彼女を目にした途端、恐怖で指先が震えはじめた。

「なんであんたが晴臣さんの婚約者になっているのよ!」

「え?」

 それをどこで知ったのかと驚く私に、史佳がさらに目を吊り上げた。

「その顔は、やっぱり本当なのね。どうしてあんたみたいな陰気くさい傷物が、晴臣さんと結婚するのよ!」

 私の二メートルほど先で足を止めた史佳が、テーブルをバンっと叩いた。
 私は弾けるように立ち上がり、震える足で一歩後ずさった。

「そ、それは、お父様に言われて……」

「言い訳なんて聞いてない! あんたなんかに、晴臣さんと結婚する資格があるわけないじゃない。酒々井家の正式な人間でもないくせに、よくもまあ図々しく受けられたわね。本当なら、自分から断る話じゃない」

 感情のまま一方的に言い募られて、なにも言えなくなる。
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