君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「本当はね、晴臣さんは私と結婚するはずだったのよ。それなのにパパが、うちより格上の三崎家に嫁いだところで、あっちの人間にいびられるだけだって言うから」

 初めて聞く話に頭が混乱する。
 晴臣さんも弥生さんもそんな人じゃないとわかっているのに、彼女の勢いに気圧されて反論ができない。

「とにかく、勘違いしないでよ。あんたは晴臣さんに望まれたわけじゃないんだから!」

 たしかに会社の都合で結ばれた婚約だ。でも晴臣さんは、もともと私に好意があったと話してくれた。
 私を好きだという彼の気持ちを疑うつもりはないけれど、史佳のあまりの剣幕に言いようのない不安に襲われる。

「三崎商事はね、うちに大きな借りがあるのよ。うちのおじいちゃんがあちらの先代社長の命の恩人なの。その恩に応えるために、今回の縁談が持ち上がったのよ」

 三崎商事ほどの大企業が、どうして絢音屋を贔屓にするのかとずっと疑問だった。
 でもそんな事情があったのならわからなくもない。到底釣り合わないこれまでの待遇は、三崎家による恩返しだったのだ。
 それが今回の縁談につながったというのは、不自然な話でもないのだろう。

「なによ、亜子。あんた、本気で晴臣さんに求められているとでも思っていたの?」

 初めて耳にした話に呆然とする私に向けて、史佳がニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「ばっかじゃないの。調子に乗って、あのだっさい眼鏡も外しちゃってさ。あんたみたいな傷物が、喜んで受け入れられるわけないじゃない」

 胸がズキズキと痛みはじめる。
 いくら化粧でわからなくなっても、傷跡は本当に消えてなくなったわけじゃない。見えなくなったからと浮かれてしまったが、根本的にはなにも解決されていなかった。
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