君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 史佳に現実を突きつけられた途端に、どんどん自信を失っていく。
 今は受け入れくれている晴臣さんだって、引っ込み思案で性格の明るくない私にいつか嫌気がさすかもしれない。
 それに私のような傷跡のある女が妻だなんて、きっと恥ずかしい思いもさせてしまうだろう。

 さらに私が正妻の子ではないと知ったら、三崎家に対する裏切りだと言われかねない。

「やっぱり、晴臣さんにふさわしいのは私みたいな正当な酒々井の人間なのよ。わかったら、結婚の話は亜子の方から断りなさいよ」

「それは……」

 自分が彼にふさわしくないとわかっていても、私の立場で断れるはずがない。

「その代わりに、私に来る予定の縁談はあんたに譲ってあげるわ」

 ああ、そうか。史佳は晴臣さんを気に入っているのだ。
 たとえそうだったとしても、自分から彼を手放すなんて今の私にはできそうにない。

「絶対よ」

 戸惑う私にかまわずそう言いきった彼女は、来たときよりも幾分か軽い足取りで引き返していった。

 それからというもの、史佳は顔を合せるたびに婚約を解消するように私に迫ってきた。
 彼女に絡まれたときは、反論を控えてひたすらうつむいてやり過ごすしかない。

 今でも晴臣さんからのメッセージは途切れず届いており、それが唯一の私の拠り所となっていた。

【亜子の部屋を用意したから。次の休みは、一緒に暮らすのに必要なものを見に行こう】

 晴臣さんは、私との未来を当然のように考えてくれている。その一貫してぶれない態度のおかげで、私は揺らぎそうになる心をつなぎとめていられた。
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