君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 とはいえ、やっぱり高価すぎるものを彼に買わせるのは気が引ける。

「私は、ベッドとテーブルくらいあれば大丈夫ですから。それほど荷物は多くないですし」

 今見ているようなドレッサーやソファーなどは必要ない。
 そう遠慮がちに伝えた私に、晴臣さんが珍しく意地悪な視線を向けてきた。

「まさか、亜子は寝室を別にするつもりか?」

 いかにも心外だという顔をされて、瞬時に顔に熱が集まる。
 あまり考えないようにしていたけれど、結婚したら寝室を一緒にするのは当然だ。私に拒否をするつもりはないものの、こんなふうに意識させられたら恥ずかしくてたまらない。

「そ、その、一緒でかまいません」

 彼の方を見られないまま、手で顔を覆ったままなんとかそれだけ返す。指の間からこっそり覗き見た晴臣さんは、うれしそうな顔をしていた。

 晴臣さんのアドバイスをもとに、必要な家具を見て回る。
 ただ遠慮もあって、自分からはなかなか意見を言えなかった。
 
 それを察した晴臣さんが、言葉巧みに私を誘導する。

「この中だったらどれが好き?」

 私の好みから外れない数種類の家具をピックアップしながら、なにかを期待するような顔で尋ねてくる。
 おそらく彼は店内を見て回ったときの私の些細な反応に気づいて、好みの傾向を把握していたのだろう。

 示された商品をじっくりと見る。どれもウッド調の優しい雰囲気で、彼のマンションにも合いそうだ。
 高額なものばかりだとわかりつつ、少しでも価格の安い方を選びたかったのに、意地悪にも見せてくれない。

「亜子の好きなものを選べばいいんだ」

 自分の希望や願望を口にするなんて慣れなくて、ますます戸惑う。
 けれど楽しそうな表情で私の返事を待つ彼を見たら、ちゃんと答えないといけないと思った。
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