君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 私だって、彼と一緒に過ごせる日々が待ち遠しい。
 あずきの心配は開所されていないが、つくしやネロに囲まれた生活は酒々井家での暮らしとは違ってきっと穏やかで心地よいに違いない。

 そんな考えが顔に出ていたかもしれない。若干不服そうな表情を見せた晴臣さんは、私の手をそっと握った。

「猫たちがいなくても、そう言ってくれるか?」

 甘く希うように晴臣さんが言う。
 途端に車内の空気が艶めいたものに変わり、私の鼓動が激しく騒ぎだした。

「当然です。私も、その、晴臣さんが好き、ですから」

 隠し事や史佳の揺さぶりに、晴臣さんとの関係がこの先どうなるのか不透明になっている。彼に自分の想いを打ち明けられる機会は、いつが最後になるのかわからない。そんな焦るような不安が常に拭えないでいた。

 でもそれだけではなくて、未来がどうなるかに関係なく彼には私の気持ちを知っておいてほしいと思う。それが誠実な彼に対して私が唯一できる罪滅ぼしなのかもしれない。

 初めて想いを告げた私に、晴臣さんは目を見開いた。それから心底幸せそうに微笑む。

「うれしいよ、亜子」

 ふわりと抱きしめられて、全身が熱くなる。

「俺も、亜子を愛してる」

 彼の告白に、ひゅっと息をのむ。

 しばらくして、体を離した彼が熱い眼差しで私を見つめてきた。
 顔をゆっくりと近づけてくる晴臣さんに合わせて瞼を閉じると、私の唇に彼のそれがそっと重なる。
 柔らかなその感触が心地よくて、なんだか心が満たされていくようだ。
 ずっとこうしていたい。そう願いたくなるほど幸福な時間に、胸がいっぱいになった。
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