君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
* * *

【十三時に会議室へ来るように】

 前に呼び出されたとき同じような、用件のみを伝えるメールが父から届く。なぜ会議室なのかはわからず首をかしげた。

 晴臣さんと結婚まで、もう一カ月をきっている。
 史佳は今でも私に突っかかってくる。自分の思ったように事が進まないため、相当不満をため込んでいるのは明白だ。
 最近はますます私へのあたりが強くなっており、顔を合わせれば罵倒される日々が続いている。

 彼女は決まって『隠し子のあんたが、ふさわしいわけがない』と言う。
 私自身は、実母が未婚で子どもを産んだことを恥じてはいない。
 でも所詮自分は〝隠し子〟と言われる存在でしかなくて、非難されてもおかしくないのだろう。

 三崎商事のような大企業ならば、とくに世間体を気にするはず。私の出自が明らかになったら、晴臣さんの迷惑になるのではないか。
 責任は父にあるのだからと、不都合な事柄から目を背け続けている。そして、そんな卑怯な自分にだんだん心が苦しくなってきた。

 婚約が決まってすぐの頃、晴臣さんのご両親と先代の社長とは、父とともに顔合わせをしている。彼らは私を歓迎してくれているように見えたが、事実を知ったらどう思われるかはわからない。

 時間になり、指定された会議室へ向かう。
 許可を得て扉を開けると、中には父のほかに女性社員がふたり控えていた。

「どうだ、素晴らしい出来だろう」

 そう言いながらすこぶるご機嫌な父が示したのは、豪華な白無垢と色打掛だった。

「お前の婚礼衣装だ」

 晴臣さんから聞いていた通り、父は結婚式のために大急ぎこの二着を仕上げていたようだ。
 短期間でこれほど豪華な物を用意するには、各所に相当無理をさせたに違いない。
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