君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 結婚の準備が進められるにつれて、私の中の罪悪感はどんどん大きくなっていった。
 今日は三人でお茶でもしましょうと弥生さんに誘われていたが、晴臣さんは仕事が立て込んでいたため不在だ。

「なになに、亜子ちゃん。マリッジブルーかしら?」

 どこか浮かない様子の私に、弥生さんが言う。深刻にならないように茶化したのは、彼女の気遣いなのだろう。

「晴臣さんの相手が、私でいいのかと……」

 そう思う理由までは言えない。それでもいろいろと抱えきれなくて、弥生さんを前にポロリとこぼした。

「大丈夫よ。晴臣は亜子ちゃんを求めている。だから自信を持って」

 晴臣さんは私を本当に大切にしてくれる。
 お色直しのドレスの打ち合わせなど男性にとっては面倒だろうに、嫌な顔ひとつしないで長時間付き合ってくれた。私への連絡も毎日怠らないし、会うたびに気持ちを言葉で伝えてくる。

「弟はね、亜子ちゃんが酒々井家の人間でなくても、あなたとの結婚を望んだと思うわよ」

 弥生さんの言葉に、ギクリと体が強張る。
 まさか彼女は、私の出自に気づいているのだろうか。

「私はあの子の姉だもの。晴臣も大人になっていろいろと取り繕うが上手くなったとはいえ、弟の本心くらい見抜けているつもり。晴臣は亜子ちゃんを必要としている」

 どうやら私の思い違いだと気づいてほっとする。

「もちろん私も、亜子ちゃんが妹になる日が待ち遠しいわ」

 弥生さんも晴臣さんも、私にとって心地よい言葉ばかりかけてくれる。
 彼女のおかげで、沈んでいた心が少し軽くなった。

「私も、弥生さんがお姉さんになる日が楽しみです」

 それは私の本心だ。

「ありがとう」

 彼女につられて、ようやく笑顔を浮かべられた。

 この幸せを手放したくない。
 そう強く願いながら、弥生さんのもとを後にした。
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