君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 帰宅して自室で体を休めながら、漠然と考えを巡らせる。
 結婚するにあたって、私は絢音屋を退職すると決めた。せっかくあの家を出るのなら、酒々井家とのつながりはできる限りなくしてしまいたい。

 晴臣さんとの結婚がどうなるにせよ、これをきっかけにひとり立ちすると決めている。
 そんな願望を胸に秘めつつ晴臣さんに退職の意思を伝えたところ、彼はどこかほっとしたような顔を見せた。

 父は、私が退職を切り出してもいっさい引き留めなかった。
 それどころか、三崎の跡継ぎを産んで絶対的な地位を築けと命令口調で言う。むしろ、そのために仕事を辞めるのが当然だと思っている節があった。

『お前の子が、いずれ三崎商事を継ぐのだろう』

 そう言った父は、満足そうな顔をしていた。
 初めて会ったときに言われた通り、父にとって私は絢音屋を発展させる駒でしかないのだ。
 自分の孫が三崎商事のトップに立ったとき、絢音屋をさらに優遇させようと目論んでいるのか。

 これでは晴臣さんを利用するようで心苦しい。
 私がいくら酒々井家と縁を切りたいと望んでも、結局は一生苦しめられ続けるのかもしれない。
< 77 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop