君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 翌日になり、あずきの世話を済ませて会社に向かう。
 退職を決めてからというもの、私は通常業務の傍らで引継ぎの準備に追われている。

「亜子さん。秘書課からの連絡で、今すぐ会議室に来てほしいそうです」

 同僚の社員から伝えられて、返事をしながら内心で首をひねる。
 いつものように父が直接メールで知らせてこないのは、それだけ急いでいるのかと首をかしげながら席を立った。

 指定された会議室は、前に婚礼衣装を見せられた部屋だ。結婚式が終わるまでは衣装を管理する専用の部屋にしたようで、着物を傷めないよう湿度管理も行っている。

 使う小物の確認や前撮りはすでに済ませているが、ここにきてなにか変更でもあったのだろうか。
 なんとなく釈然としないものを感じつつ扉をノックをすると、女性の声で返事があった。きっと婚礼衣装の担当者だろうと、疑いもせずに扉を開ける。

「失礼し……」

 顔を上げた先に史佳の姿を認めて、動きを止めた。

「遅い! 私を待たせるなんて、何様のつもりよ」

 私を呼びだしたのは、どうやら彼女だったらしい。ほかには誰もいなくて、応じるべきか躊躇する。

「さっさと入って来なさいよ」

 観念して、足を踏み入れる。
 私の背後で、扉がパタリと閉まる。それだけで、なんだか心細くなった。

「結婚式がウエディングドレスじゃないなんて、だっさい」

 かけられている二着を見ながら史佳が嘲笑する。

「でもね、隠し子のあんたにこんな贅沢なものを用意させるなんてあり得ないわ!」

 ドンっと足を踏み鳴らした彼女に驚いて、ビクリと体が揺れた。
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