君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「これをあんたがやったって言ったら、パパはどうするかしら」

 私を振り返った史佳が、満足げにニヤリと笑う。
 これを私のせいにされたら、さすがに父も晴臣さんの相手を変えると言うのだろうか。

「そんな。私はなにもしていません。それに私たちの結婚は会社同士の関係も絡んだもので、こんな勝手は……」

 これまでの私なら、ここで言いなりになって身を引いていたかもしれない。
 でも、どうしても晴臣さんをあきらめられなくて必死で言い返した。

「ばかなの? 政略結婚だからこそ、隠し子のあんたが相手に選ばれるのはおかしいんじゃない。それに、婚礼衣装をダメにした亜子が許されるはずがないわ。パパは間違いなく激怒するだろうし、相手を私に変更するでしょうね」

 史佳にとってはそれが当然の流れのようで、得意げに笑う。
 悔しさに手をぎゅっと握り込んだ。

「は、晴臣さんは、私を好きだって言ってくれたわ」

「なに言ってんのよ」

 彼だけは失いたくない。その一心で反論したのが、史佳の逆鱗に触れてしまったらしい。
 怒りの滲む低い声にゾクリとする。

「向こうはうちに恩があるのよ。そんなの、あんたとの仲を良好に見せるうそに決まってるじゃない」

「そんなことない!」

 晴臣さんはそんな卑怯な人じゃない。それだけは否定したく、いつになく乱雑な口調で言い返した。

 一瞬怯んだ史佳だったが、すぐに勢いを取り戻して私を睨みつけてくる。

「いい加減にしてよ! 亜子なんかが誰かに好かれるわけがないじゃない。あんたは疎まれる存在なのよ」

 彼女の心の叫びに恐怖すると同時に、ズキリと胸が痛む。
 史佳もまた被害者なのだと、悲痛な声音が訴えてくるようだ。

 これまで私が苦しんできたように、史佳にも様々な葛藤があったはず。
 父親に隠し子がいたという裏切りや、娘に対する関心のなさに彼女も傷つけられてきた。
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