君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「お願い、やめて。誰か、誰か助けて」

 叫ぶようにそう繰り返していたそのとき、会議室の扉がノックもなく開かれた。

「亜子!」

「晴臣さん」

 床にしりもちをついたままの私に、異常事態を察した晴臣さんが慌てて駆け寄る。そうして史佳との間に立ち、私をその背に隠した。

「なにをしている」

 鋭く言い放った晴臣さんが、ナイフに気づいてすぐさま彼女の腕をつかむ。そもまま難なく奪い取った。
 さらに史佳を私から遠ざけると、彼は優しい手つきで私を起こしてくれた。

 私の顔を覗き込んだ彼が、眉をひそめる。
 それからハンカチを取り出し、頬にそっと当ててくれた。

「これはどういうことだ?」

 再び史佳を見すえた晴臣さんが、厳しい口調で彼女を問い詰める。
 それに怯んだ史佳だったが、すぐに彼の背後に隠れる私の存在を思い出して目を吊り上げた。

「あなたにふさわしいのは、酒々井家の正統な娘である私よ。それなのに、なんで亜子なんかが……」

「なにが言いたい」

 晴臣さんがチラッと私を振り返る。
 史佳が真相を打ち明けるつもりだと気づいて、私の視線が不安に揺れた。

「亜子は、ママの娘じゃないわ。パパの隠し子でしかない。うちに引き取られたのだって生まれて何年も経った後だったし、そもそも酒々井家では家族と認められていない存在よ!」

 ついに真実を知られてしまい、晴臣さんを見られなくなる。うつむいて、唇をきつく引き結んだ。

「だから、亜子はあなたの相手にふさわしくない!」

「……話はそれだけか」

 感情の読めない落ち着き払った彼の声音を耳にして、そろりと目を開ける。
 荒い息遣いをしていた史佳は、真相に慌てない晴臣さんに怪訝な視線を向けていた。
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