君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「亜子が酒々井都の実子でないなど、三崎の人間は知っている」

 まさか把握されているとは思っておらず、驚きに目を見開く。それは史佳も同じだったようで、みるみる勢いを失っていった。

「知ってるって……じゃあどうして」

 史佳が小声でつぶやく。

「俺が亜子を望んだんだ」

「な、なんでよ。どうして亜子なんか……」

「酒々井社長に君との縁談を持ち掛けられたとき、俺の方から相手が酒々井亜子ならば受けると言い渡した」

「そんなの、うそよ。だって、おかしいじゃない」

 その経緯を私と同様に史佳も知らなかったようで、頭を振り乱して否定する。

「晴臣さんとの結婚をお願いしたのは、私なのに」

 なんとなく、この縁談のきっかけが見えてくる。
 やはり史佳は、絢音屋を訪れた晴臣さんに惹かれて父におねだりをしたのだろう。父としてもなんとしても結んでおきたい縁で、すぐさま応じた。

 ふたりとも、まさか晴臣さんが私を指名するとは思っていなかったはず。
 つながりさえできればいいと考える父は、秘密裏に私との婚約をまとめた。そして史佳に知られたら面倒だと、私たちに口止めしたのだろう。
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