君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「晴臣君が来ていると聞いたが……」

 再び開いた扉に視線を向けた。
 ノックもなく無作法に入ってきたのは父だ。

「ああ、よく来てくれたね――おい、亜子。その顔はどうした」

 晴臣さんに機嫌よく声をかけた父だったが、私に気づいて不機嫌な態度になる。

 机にぶつけたところは切れていたようで、彼のハンカチを血で汚していた。
 それに、史佳に叩かれところはジンジンと痺れたままだ。赤味はまだ引いていないだろう。

「なんで史佳まで……」

 ようやく史佳の存在に気づいた父は、それから無残な姿になった婚礼衣装に視線を移して驚愕した。
 一瞬のうちに、父の顔が怒りで真っ赤に染まる。

「なっ!? どういうことだ。めちゃくちゃじゃないか」

 父は、衣装の一番近くにいた史佳をギロリと睨みつけた。

「史佳。まさかお前がやったのか」

 尋ねているようで、その口調は完全に断定している。なにも聞かないまま一方的に決めつける態度に、ふたりの信頼のなさがうかがえた。

「史佳! お前はなにをしてくれたんだ」

「だ、だって」

 父の大きな怒りに触れて、さすがに史佳もうろたえる。

「酒々井社長。落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか。この衣装に、いったいいくらかけたと思っているんだ」

 我を忘れた父は、晴臣さんにも怒りを向けた。

「おい、史佳!」

 父が再び史佳に向かった隙に、晴臣さんが私の顔を心配そうに覗き込んできた。
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