君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「さ、殺人だなんて、いやだなあ晴臣君。少し大げさすぎないか? なにか、行き違いがあっただけだろ。単なる姉妹喧嘩だよ」

「大げさなわけがないでしょう。現に亜子はケガをしている」

 私に憎悪の感情を向けていた史佳だが、今は顔色を悪くしている。

「亜子が中学生の頃にこめかみに負った傷も、本当は史佳さんによるものだったそうですね。あなたはそれを、察していたんじゃないですか?」

 ギクリと体を強張らせる父に、図星だと悟る。
 晴臣さんは決して口にしなかったが、知っていてなにもしなかった父も同罪だと糾弾しているようにも聞こえた。

 父にとって、家族の起こすいざこざは面倒でしかなかったのだろう。当時この人は、事の経緯を知ろうともせずに一方的に私を叱責した。

 証拠などなにもないから、私に話を蒸し返すつもりはない。ただ知っていながらなにもしなかった父に、あらためて失望した。

「今回の件を、私は見過ごせません」

 晴臣さんの言葉を受けて、父は再び史佳を睨みつけた。すべてを彼女のせいにしようと決めたに違いない。

「史佳! お前はなにをやってくれたんだ。いつも俺を困らせるばかりで、なんの役にも立ちやしない。さすがにもう許せん。お前は今日で絢音屋をクビにする」

 いくら彼女に非があるとはいえ、一方的な言いようがあまりにも不快だ。それに、これでは話をすり替えているに過ぎない。

「晴臣君。今日のところは、ひとまずこれで納めてくれないだろうか」

 父にそう言われても、晴臣さんは厳しい表情のままだった。
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