君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「私から補足させてもらいます。亜子に敵意を向けるのは、酒々井社長の奥様も同じでしょう。金輪際、あなたの妻子が亜子に接触しないように徹底していただきたい。それが守られるのなら、亜子もこう言っているので私も話を治めましょう」

 重ねられた晴臣さんからの要求に、父が苦虫をかみつぶしたような顔になる。

「あ、ああ。約束しよう」

 私があの家でどんな立場にあったのかを晴臣さんは把握していると気づき、父は承諾せざるを得なかった。

「それから、こんな危険な人物がいる環境に亜子を置いておくわけにはいかない。彼女は今日から私のもとで暮らしてもらいます」

 まさかの提案に驚いて目を見開く私に、彼は振り返って微笑みかけてきた。

「かまわない」

 即答した父の背後で、史佳が表情を険しくした。
 父にとっては、私たちが結婚さえすればいいのだ。

「この衣装は、もう着られないな」

 晴臣さんの視線を追って、無残に切り刻まれた二着に私も目を向ける。
 たくさんの人の協力で仕上がったこれらが、一度も披露されないままだめにされたのは残念でならない。

「すぐに新しいものを用意させるから、少し待ってもらいたい」

 慌ててそう言った父に、晴臣さんは眉間にしわを寄せた。

「酒々井社長。亜子の気持ちを尊重してほしいと、私が提示した結婚の条件を覚えていますか?」

「も、もちろんだ。急いで対応に当たらせるから、これで失礼する」

 そう言い残すと、父はこれ以上なにかを言われないように、史佳を引きずりながら急いで会議室を出て行った。
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