君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「そのおかげで、私はこうして晴臣さんの婚約者になれたんですね」

 たしかに私にとって彼との婚約は、父から命令からはじまった。
 でもそれはきっかけにすぎないと言った私に、晴臣さんがようやく笑みを浮かべる。

「家族には、その段階で俺の亜子への気持ちを明かしてある。もちろん反対はされなかった。ただ祖父が酒々井家はひとり娘じゃなかったかと後になって気づいて、念のために調べた。そこで亜子の母親が酒々井都とは別の女性だとわかったんだ」

 層とは知らず、私は事実を隠してきた申し訳なさに視線を下げた。

「私が正妻の子ではないと、言わないとダメだってわかっていたんです。でも、どうしても打ち明けられなくて」

 晴臣さんに軽蔑されたくない。その恐怖から声が震える。

「この結婚を白紙にされたくなかった」

 そう言った私を、晴臣さんが抱きしめてくれた。

「それを亜子が気にしていると気づかなくてごめんな。父も祖父も亜子の出自を問題視していない。だから、亜子がなにかを負い目に感じる必要はないんだ。それに俺は、もし亜子が酒々井の人間じゃなかったとしてもかまわない」

 そっと体を離されて、そろりと顔を上げる。

「それよりも、生き物を平気で足蹴にするような女性など俺は受け入れられない」

 おそらく、史佳がつくしを足蹴にしていた場面を彼も見ていたのだろう。

「俺には、亜子意外との結婚なんて考えられない」

「わ、私だって、晴臣さん以外の人なんてありえません。その、私も晴臣さんが、好きなので」

 気恥ずかしくてうつむくと、晴臣さんが再び私を抱きしめた。

「愛してる、亜子」

 耳もとでささやかれて、ドクリと鼓動が跳ねる。

「私も、あなたを愛しています」

 あらためてそう告げた私に、晴臣さんは優しく口づけた。
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