君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
「あずきも一緒につれていこう」

 口にしてはいけないとのみ込んだ言葉を、彼に言わせてしまった。

「でも、これ以上晴臣さんに迷惑をかけられません」

「亜子」

 うつむいた私の髪を、晴臣さんが優しくなでる。
 恐る恐る視線を上げると、目の前の彼は穏やかな表情を浮かべていた。

「迷惑なんかじゃない。俺は人にも動物にも優しい亜子が好きなんだ」

 瞳の端に、じわりと涙が滲む。

「もう一匹ペットが増えたところで問題ない。ネロやつくしとどうにも合わなければ、別の部屋で飼えばいいだけだ」

「でも」

 彼に甘えてばかりいるのは心苦しくて反論をしかけると、私の唇に彼が人差し指を当てた。

「亜子はどうしたい? 正直な気持ちを教えてほしい」

 穏やかに問いかけられて、ますます瞳が潤む。

 どう考えても、史佳たちはあずきにとってよい環境を維持してくれるとは思えない。それどころか、あの子の命が心配でたまらなかった。

「この家に、あずきを置いていきたくないです」

「それなら、このまま一緒につれていこう」

 荷物をまとめて最後にあずきをキャリーケースに入れると、私が躊躇する隙も与えず晴臣さんが運んでいった。
 彼の車に乗り込んだときには、肩の荷が下りた気分だった。
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