君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 あずきを連れてやってきた私に、ネロとつくしが大きな関心を示した。
 さすがにネロは警戒心をあらわにして遠巻きに見ていたけれど、好奇心旺盛なつくしはそろりと近寄ってくる。
 お互いに威嚇はしていないが、焦りは禁物だとあずきをケージに入れたまま反応を見守ることにした。

 それから私が荷物を片づけている間に、晴臣さんが夕飯を用意してくれる。

「簡単なものだけど」

 そう言って彼が指し示したテーブルには、カレーライスとサラダが並べられていた。

「美味しそう」

 笑みを浮かべた私を、晴臣さんは席に着くように促した。

「ごめんなさい。気が利かなくて」

 片づけよりも食事作りをするべきだったと猛省する。

「できる方がやればいいんだ」

 ここは酒々井家とは違う。
 今後はなんでもふたりで協力していけばいいのだと、彼の優しさを素直に受け入れた。

 向かい合わせに座って食事をして、食器や調味料の置き場所を教えてもらいながら一緒に食器を片づけた。
 突然一緒に暮らす流れになったけれど、晴臣さんがさりげなく寄り添ってくれるから落ち着いていられる。

 そろそろ寝ようかと言われて、ようやくベッドがひとつしかないと気づく。
 見るからに緊張する私の髪をなでながら、晴臣さんが苦笑した。

「心の準備もないまま、なし崩し的に手を出すつもりはないから。まずは俺と一緒に寝ることに慣れてほしいが、だめか?」

 眉を下げた彼に、胸がキュンとする。
 恥ずかしいものの断るつもりはなくて、彼に並んで体を横たえた。

「おやすみ、亜子」

 そう言いながら額に口づけられてドキドキする。

「お、おやすみなさい」

 目が冴えてしまい、しばらくの間は眠れないままでいた。
 けれど、今日はいろいろとありすぎてすっかり疲れきっていたのだろう。隣から聞こえる彼の息遣いにつられるように、すっと眠りについた。
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