君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 史佳と対峙した二日後。私と晴臣さんは、父に呼ばれて絢音屋の社長室を訪れていた。

「呼び出してすまなかったね」

 そう晴臣さんに下手に出てみせた父だが、そのわざとらしい笑みがいかにも胡散臭い。

「先日は、史佳がみっともないところを見せてしまってすまない。行く当てがないからうちで雇ってやっていたというのに、あいつはまったく。約束通り、史佳は会社をクビにしたからな」

 三崎商事への印象を少しでもよくしておくために、父はあの後すぐに動いたのだろう。
 ただそれは約束ではなくて、この人が勝手に言いだした話だ。私も彼も史佳を解雇するように頼んだ覚えはないし、実際にクビにしたと言われてもうれしくない。

「だが、さすがに解雇だけでは晴臣君にも示しがつかないと思ってな」

 なんの話だろうか。
 こっそり隣をうかがうと、晴臣さんも詳細は知らないようで不審そうな顔をしていた。

「あれも私の妻も、これまでろくに働きもしないでやりたい放題してくれていた。亜子にも辛く当たっていたようだしな。忙しさにかまけて、をあまり気にかけてやれずにすまなかった」

 実の娘を〝あれ〟呼ばわりするなんて不快だ。
 急に父親面をされても不信感しかない。すべての原因はこの人にあるというのに、まるで他人事のような父にうんざりした。

「私もね、亜子をそんなふうに扱った都や史佳が許せなかったんだよ。聞いてみれば、やはり亜子のこめかみのケガも原因は史佳だったというし」

 そう言って父は私の顔の右側に視線を向けたが、ケガをしたのは左側だ。
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